系譜 / 現代の言説

引き寄せ・波動はどこから来たか

「引き寄せの法則」「波動が高い」という言い方は、いま日本語のなかで広く使われています。この言い方が、いつ、どこで、誰の書いたものとして現れたのかを、刊行年と版元をつけて並べます。退けるためではありません。ほかの立場には原典の章節をつけているのに、ここだけ出典を書かないのでは、扱いがそろわないからです。

01

刊行された順に並べる

並びは成立の古い順で、重要さの順ではありません。全文がインターネット上で読めるものが多く、原文にあたれます。

十九世紀 ── 源流とされる場所
1802〜1866
クインビー
この系譜の源流とされる人物だが、生前に一冊も本を出していない。手稿が没後に編まれ、思想が知られるようになった。出典:『The Quimby Manuscripts』ホレイショ・ドレッサー編 1921年(初出は1895年の紹介書)
1869
エヴァンズ
心の状態が振動として人から人へ伝わると説いた。この系譜で「波動」の語が現れる、確認できた最初期にあたる。出典:ウォレン・エヴァンズ『The Mental Cure』ボストン 1869年 第5章
1875
神智学協会
ニューヨークで創設された。人は複数の層からなるという枠組みを広め、のちの語彙に大きな影響を残していく。出典:オルコット会長就任演説 1875年11月17日(Mott Memorial Hall)
1886〜1891
マルフォード
思考はものであるという言い方を広めた。月刊の小冊子として出され、のちに一冊へまとめ直されている。出典:『White Cross Library』F・J・ニーダム社 1886〜1891年(『Thoughts Are Things』は後年の選集)
1888
ブラヴァツキー
神智学の教義を二巻にまとめた。宇宙の生成と人類の生成を扱い、この潮流の土台として繰り返し参照される。出典:H・P・ブラヴァツキー『The Secret Doctrine』全2巻 ロンドン 1888年
二十世紀初頭 ── 言葉が固まる
1902
セグノ
思考が身体のまわりの原子を動かし、波として広がると説いた。「波動」の語がここで繰り返し使われている。出典:A・V・セグノ『The Law of Mentalism』ロサンゼルス 1902年
1906
アトキンソン
書名に「引き寄せの法則」が入る、確認できた最初期の本。同じ題で1901年から雑誌に連載されていたことが序文にある。出典:W・W・アトキンソン『Thought Vibration, or The Law of Attraction in the Thought World』シカゴ 1906年
1910
ワトルズ
思考の使い方によって豊かさが得られると説いた。のちに『富を得る科学』の題で繰り返し訳し直されている。出典:W・D・ワトルズ『The Science of Getting Rich』ホリヨーク 1910年
1912
ハアネル
二十四週の通信講座として始まった。書籍にまとめられた年は資料によって食い違い、確定できていない。出典:C・F・ハアネル『The Master Key System』通信講座1912年(現存する最古の本は1919年 セントルイス)
1937
ヒル
成功をめぐる語り口として広く読まれた。この系譜の言葉が、自己啓発の側へ移っていく通り道になっている。出典:ナポレオン・ヒル『Think and Grow Rich』ラルストン・ソサエティ 1937年
二十一世紀 ── 日本語に入る
2006
ヒックス夫妻
「エイブラハム」から受け取った教えという形をとる。現在よく知られている言い回しの多くが、ここに集まっている。出典:E・ヒックス/J・ヒックス『The Law of Attraction』ヘイハウス 2006年
2006
バーン
映像と書物で世界的に広まった。過去の著述家たちを引きながら、一つの法則としてまとめ直す形をとっている。出典:ロンダ・バーン『The Secret』アトリア・ブックス 2006年
2007年10〜11月
日本語
「引き寄せの法則」という日本語は、この二か月に一斉に現れた。それ以前に、この語を書名に持つ本は見あたらない。出典:国立国会図書館サーチで書名を全件照会(2007年10月『引き寄せの法則 エイブラハムとの対話』吉田利子訳ほか)
02

「波動」は、最初から通っていた言葉ではない

語がいつ入ったかを、本文を数えて確かめた

源流とされるクインビーの遺稿集で「振動」の語が出てくるのは脈拍を指す一箇所だけです。この潮流の代表作とされるトライン『In Tune with the Infinite』(1897年)には一度も出てきません。ブラヴァツキー『The Secret Doctrine』(1888年)でも四箇所にとどまります。

いっぽうエヴァンズ『The Mental Cure』(1869年)には三十三箇所、セグノ『The Law of Mentalism』(1902年)には三十五箇所あります。「波動」は系譜の最初から通っている語ではなく、一八六九年に現れ、一九〇〇年代初頭に定着した語です。

この節は、書物の全文にあたって語の数を数えた結果です。系譜を一本の線として描くと、途中で入った言葉を最初からあったように見せてしまいます。

03

確かめられなかったこと

よく流布している年のうち、二つは一次の書誌で裏づけが取れませんでした。そのまま書きません。

マルフォード『Thoughts Are Things』を1889年とすること

図書館の目録でたどれる同名の本は、いずれも二十世紀に入ってからのロンドン版です。1889年は、もとになった連載の発表年に由来する可能性があります。確認できた範囲=米議会図書館・ハーヴァード大学の目録

ハアネル『The Master Key System』の書籍化を1916年とすること

復刻版の記載が1916年と1917年に割れており、図書館が所蔵する最も古い版は1919年です。通信講座が先という点は一致しています。確認できた範囲=米議会図書館・ハーヴァード大学の目録

04

出典の確認状況

この節は、読者に見える形で置いています。どこまで確かめたかを隠さないことが、引用される条件だと考えています。

出典使った箇所状況
『The Quimby Manuscripts』ホレイショ・ドレッサー編 1921年01節全文と編纂の経緯を確認
ウォレン・エヴァンズ『The Mental Cure』1869年 第5章01・02節全文で語の数を確認
オルコット会長就任演説 1875年11月17日01節一次資料を確認
マルフォード『White Cross Library』1886〜1891年01・03節刊行の形態を確認
H・P・ブラヴァツキー『The Secret Doctrine』全2巻 1888年01・02節初版の扉で確認
A・V・セグノ『The Law of Mentalism』1902年01・02節全文で語の数を確認
W・W・アトキンソン『Thought Vibration』シカゴ 1906年01節奥付と目録で二重に確認
W・D・ワトルズ『The Science of Getting Rich』1910年01節書誌番号まで確認
C・F・ハアネル『The Master Key System』1912年/1919年01・03節書籍化の年は確定できず
ナポレオン・ヒル『Think and Grow Rich』1937年01節初版の版元を確認
E・ヒックス/J・ヒックス『The Law of Attraction』2006年01節書誌と邦訳を確認
ロンダ・バーン『The Secret』2006年01節書誌と邦訳を確認
トライン『In Tune with the Infinite』1897年02節全文で語が無いことを確認
国立国会図書館サーチ(書名「引き寄せの法則」全件)01節130件を刊行年順に確認
ベリル・サッター『Each Mind a Kingdom』1999年参考研究書として書誌を確認
キャサリン・アルバニーズ『A Republic of Mind and Spirit』2007年参考研究書として書誌を確認
05

このページの立ち位置

来歴を示すことは、退けることではありません

どこから来たかが分かることと、その内容が正しいかどうかは、別の話です。このページは前者だけを扱います。後者は判定しません。

ほかの問いのページでは、それぞれの立場に原典の章節をつけています。現代の言説にだけ出典をつけないでいると、同じ体裁で並べたことになりません。同じ扱いをするために、来歴をたどりました。