系譜 / 現代の言説

臨死体験の研究はどこから来たか

臨死体験という言葉が広まったのは一九七〇年代です。ただし報告を集める試みは、その八十年ほど前から始まっていました。誰が、いつ、どういう形で記録を残してきたのかを、掲載誌と刊行年をつけて並べます。

01

刊行された順に並べる

並びは成立の古い順で、重要さの順ではありません。

十九世紀末〜二十世紀前半 ── 記録が集められはじめる
1892
ハイム
登山中に墜落した人々の証言を集め、恐怖ではなく静けさが語られることを報告した。確認できるかぎり最も早い記録である。出典:アルベルト・ハイム「墜落による死についての覚え書」『スイス山岳会年報』27年次 1892年 327〜337頁
1926
バレット
臨終の床で語られる幻視の記録を一冊にまとめた。医師や看護する者からの報告を集める形をとっている。出典:ウィリアム・バレット『Death-bed Visions』ロンドン メシュエン社 1926年
一九七〇年代 ── 名前がつき、分野になる
1975
ムーディ
百五十人への聞き取りから共通する要素を抜き出した。この本が「臨死体験」という言い方を広めた。出典:レイモンド・ムーディ『Life After Life』1975年(邦訳『かいまみた死後の世界』中山善之訳・評論社1977年)
1977
オシスとハラルドソン
医師と看護師への大規模な調査を行い、米国とインドで報告を比べた。文化による差を初めて正面から扱った。出典:オシスとハラルドソン『At the Hour of Death』ニューヨーク 1977年
1978
学会の設立
研究者の集まりがオハイオで発足した。三年後に国際臨死体験研究協会へ改称し、いまも活動を続けている。出典:国際臨死体験研究協会(IANDS)の公式沿革
一九八〇年代 ── 測る道具が作られる
1980
リング
報告を五つの段階に整理した。安らぎ、体外離脱、暗がり、光、光の世界という順で並べる枠組みである。出典:ケネス・リング『Life at Death』ニューヨーク 1980年 第3章
1981
学術誌の創刊
専門の学術誌が創刊された。第六巻から誌名を『臨死研究誌』に改め、いまも同じ名のもとで続いている。出典:『Anabiosis: The Journal for Near-Death Studies』第1巻第1号 1981年7月
1983
グレイソン
体験の度合いを数値にする十六項目の尺度を作った。ここで初めて、研究どうしを比べられる形になった。出典:ブルース・グレイソン『神経精神疾患誌』171巻6号 1983年 369〜375頁
日本での受容
1992
ベッカー
日本語で書かれた学術的な検討として早い時期のもの。宗教学の側から体験の位置づけを論じている。出典:カール・ベッカー『死の体験——臨死現象の探究』法藏館 1992年
1994
立花隆
上下二巻にわたる長い取材の記録。日本語圏でこの主題が広く知られるようになったきっかけの本である。出典:立花隆『臨死体験』上・下 文藝春秋 1994年(のち文春文庫)
二十一世紀 ── 起きる前から記録する
2001
ヴァン・ロンメル
心停止から蘇生した三百四十四人を、あらかじめ登録して追跡した。体験の有無と投薬や意識消失の長さは結びつかなかった。出典:ヴァン・ロンメルら『ランセット』358巻9298号 2001年 2039〜2045頁
2014
パーニア
二千六十件を四年かけて追跡し、見聞きした内容の正しさを確かめる手続きを組み込んだ。九パーセントが基準に当たった。出典:パーニアら『Resuscitation』85巻12号 2014年 1799〜1805頁
02

この百三十年で、何が変わったか

集めることから、測ること、そして先に構えることへ

最初の八十年はすでに起きたことを集める形でした。ハイムは登山者に、バレットは臨終に立ち会った人に尋ねています。一九八〇年代に入ると、リングが段階に整理し、グレイソンが十六項目の尺度を作りました。比べられる形にすることが、この時期の仕事です。

二〇〇〇年代からは向きが変わります。ヴァン・ロンメルもパーニアも、体験が起きる前に対象を登録して待つ形をとりました。あとから聞き取る方法では、覚えている人だけが集まってしまうからです。

「何が起きたか」と「何を示すか」は、分けて扱われてきました

報告に共通の要素があることは、早くから記録されています。それが死後の世界の証拠なのかどうかについては、研究者のあいだでも一致していません。この二つを分けることは、この分野の内側から出てきた区別です。問いのページ「臨死体験は何を示すのか」では、その分かれ方のほうを並べています。

03

確かめられなかったこと

学術誌の誌名が変わった年が、資料によって食い違います。図書館の書誌は一九八六年としますが、第六巻第一号の誌面には一九八七年と印字されています。そのまま「第六巻から改称」と書き、年は断定していません。

04

出典の確認状況

出典使った箇所状況
ハイム「墜落による死についての覚え書」『スイス山岳会年報』27年次 1892年01節誌名・巻・頁を確認
バレット『Death-bed Visions』ロンドン メシュエン社 1926年01節初版の版元を確認
ムーディ『Life After Life』1975年(邦訳 評論社1977年)01節原著と邦訳を確認
オシスとハラルドソン『At the Hour of Death』1977年01節書誌を確認
国際臨死体験研究協会(1978年設立・1981年改称)01節公式沿革を確認
リング『Life at Death』1980年 第3章01・02節五段階の記述を確認
『Anabiosis: The Journal for Near-Death Studies』第1巻第1号 1981年7月01・03節改称の年は資料が食い違う
グレイソン『神経精神疾患誌』171巻6号 1983年 369〜375頁01・02節巻号と頁を確認
ベッカー『死の体験——臨死現象の探究』法藏館 1992年01節書誌を確認
立花隆『臨死体験』上・下 文藝春秋 1994年01節版元と刊行年を確認
ヴァン・ロンメルら『ランセット』358巻9298号 2001年01・02節巻号と頁を確認
パーニアら『Resuscitation』85巻12号 2014年01・02節巻号と頁を確認