系譜 / 日本

日本の祖霊観はどう形づくられたか

亡くなった人は三十三年で祖霊になり、山にとどまって盆と正月に帰ってくる——この見方は、日本人が古くから持っていたものとして語られることがあります。ただし、それがいつ書かれたものかをたどると、見え方が変わります。刊行年をつけて並べます。

01

年代の順に並べる

並びは成立の古い順で、重要さの順ではありません。

古代 ── 記録に残る祭祀
八世紀
『日本書紀』
皇祖神を宮中から移して祀った経緯が記される。氏の祖神をめぐる祭祀であり、家ごとの祖霊の話ではない。出典:『日本書紀』巻第五 崇神天皇六年条
927年
『延喜式』
国家の祭祀が巻ごとに細かく定められている。ここでも中心は皇祖神と神々であって、家ごとの祖霊ではない。出典:『延喜式』神祇式(927年撰進・967年施行)
仏教が入ってから ── 盆という形が加わる
三〜四世紀
『盂蘭盆経』
亡き親を救う功徳が説かれている。インドで成立したか中国での撰述かをめぐって、いまも議論が続いている。出典:『仏説盂蘭盆経』(竺法護訳と伝える・『大正新脩大蔵経』第16巻685番)
江戸時代
檀家の制度
家ごとに寺が定まる仕組みが広がった。先祖を祀る営みが、家の単位で制度に支えられることになった。出典:圭室文雄『葬式と檀家』吉川弘文館 1999年
二十世紀 ── 民俗学が像を描く
1929年
折口信夫
時を定めて他界から訪れる存在という枠組みを立てた。まれびとと呼ばれ、のちの議論の土台になっている。出典:折口信夫「国文学の発生(第三稿)」『民族』第4巻第2号 1929年
1946年
柳田国男
三十三年で祖霊になる/霊は山にとどまり盆と正月に帰るという像を示した。東京への空襲のさなかに書かれている。出典:柳田国男『先祖の話』筑摩書房 1946年(第21節・第51節・第66節)
その後 ── 描かれた像そのものが検討される
1983年
鈴木岩弓
柳田の祖先観を、先祖と家という二つの観念に分けて検討した。学術の側からの本格的な読み直しにあたる。出典:鈴木岩弓「柳田國男の祖先崇拝論」『論集』第10号 1983年 79〜94頁
2020年
由谷裕哉
山と死者の霊をめぐって柳田自身に混乱があったと指摘した。空襲下で急いで組み直された著作だとも述べている。出典:由谷裕哉「柳田國男の霊山観と祖霊論との関わり」『明治聖徳記念学会紀要』復刊57号 2020年
2014年
黒田秀教
古代の日本で祖霊が祀られていた証拠を見つけるのは難しいと論じた。外来の思想の影響を検討している。出典:黒田秀教「日本古代祖先祭祀之形成」『台大日本語文研究』第27期 2014年
02

この系譜でいちばん大事なこと

いま広く知られている像は、一九四六年に書かれたものです

三十三年で祖霊になること、霊が山にとどまること、盆と正月に帰ってくること。これらをひと続きの体系として示したのは、柳田国男『先祖の話』(一九四六年)です。東京への空襲のさなかに書かれ、終戦の翌年に世に出ました。

それぞれの要素は、もっと古くからあります。ですが「三十三年」「山」「盆と正月」を一つの筋につないだのは、この本です。古代から連続してこの形だったのではありません。

古代の記録に、家ごとの祖霊祭祀は見つけにくい

『日本書紀』にも『延喜式』にも祭祀の記述はあります。ただしそれは皇祖神や氏の祖神をめぐるもので、家ごとの先祖を祀る営みとは別のものです。研究の側からは「古代の日本で祖霊が祀られていた証拠を見つけるのは難しい」という指摘が出ています。

柳田自身にも、揺れがあったと指摘されています

山と死者の霊との結びつきについて、柳田本人に混乱があったという検討が二〇二〇年に出ています。『先祖の話』を「空襲下で急いで組み直された著作」と評する見方です。この系譜は、柳田の説を退けるためのものではありません。いつ、どういう状況で書かれたかを添えることで、読み手が距離を測れるようにするためです。

03

確かめられなかったこと

『先祖の話』が戦時下に書かれたことは学術文献で裏づけられますが、執筆の具体的な月日までは確認できませんでした。「一九四五年の何月」という書き方はしていません。
『盂蘭盆経』が『大正新脩大蔵経』第十六巻の第六八五番であることは確認しましたが、頁数は確認できていません。

04

出典の確認状況

出典使った箇所状況
『日本書紀』巻第五 崇神天皇六年条01・02節原文を確認
『延喜式』神祇式(927年撰進・967年施行)01・02節撰進年と構成を確認
『仏説盂蘭盆経』(『大正新脩大蔵経』第16巻685番)01・03節頁数は確認できていない
圭室文雄『葬式と檀家』吉川弘文館 1999年01節書誌を確認
折口信夫「国文学の発生(第三稿)」『民族』第4巻第2号 1929年01節初出誌と年を確認
柳田国男『先祖の話』筑摩書房 1946年(第21・51・66節)01・02・03節節の位置まで特定
鈴木岩弓「柳田國男の祖先崇拝論」『論集』第10号 1983年01節巻号と頁を確認
由谷裕哉「柳田國男の霊山観と祖霊論との関わり」2020年01・02節記述を確認
黒田秀教「日本古代祖先祭祀之形成」『台大日本語文研究』第27期 2014年01・02節論旨を確認