死んだあとに、名前や成したことが残る。それに意味はあるのか。朽ちないものとして重んじる立場、退ける立場、記憶する側もいずれ死ぬと指摘する立場があります。同じ体裁で並べます。判定はしません。
並びは成立の古い順で、順位ではありません。一つの答えは同じ長さにそろえてあります。資料の多い立場ほど長くはなりません。
儒教は徳を立て、功を立て、言を立てることを「朽ちないもの」と呼びます。ユダヤ教は「良き名の冠は、他のどの冠にも勝る」と述べます。正面から退ける側もあります。『荘子』は「聖人に名は無い」とし、エピクロスは「隠れて生きよ」と伝えられ、上座部は「愚者の得る名声はただ害をなす」と説きます。
マルクス・アウレリウスは、名声を望む者が見落としていることを指摘します。覚えている人もまた間もなく死に、その後を継いだ人も死に、記憶そのものが絶えていく。名声を退ける理由として、これは他と違う筋道です。価値がないからではなく、続かないからだ、という形です。
日本の祖霊の観念では、三十三年を経ると個の名を離れて祖霊になるとされます。名が消えることが、そこでは終わりを意味しません。フランクルは、過ぎ去った出来事は過去のうちに保たれるとしました。誰かが覚えているかどうかとは別に、あったことは残るという立て方です。
『バガヴァッド・ギーター』は、二章でアルジュナに「不名誉は死に勝る」と語ります。戦士としての務めを説く文脈です。ところが十二章では、名誉と不名誉に等しくあることが理想として挙げられます。同じ書物のなかで、向きが逆です。
どちらかを選んで「ヒンドゥー教の立場」とすることはしません。01節では両方を並べて書き、どちらを採るかは読む側にゆだねます。
エピクロスのこの語は、本人の著作が伝わっているのではありません。プルタルコスが「隠れて生きよは正しい言か」という反駁の書を書き、そのなかで引用したことによって伝わりました。引かれた側の言葉が、批判する側の書物にしか残っていない例です。出典にもその旨を明記しています。
『論語』衛霊公篇の「君子は世を没えて名の称せられざるを疾む」は、レッグ訳では第十九章、ほかの版では第二十章とされます。片方だけ書くと、別の版を持つ読者と食い違います。01節では両方を併記しています。
最上のものは徳を立てること。その次は功を立てること。その次は言を立てること。
久しきを経ても廃れない。これを不朽という。
この直前で、家系が続くことを不朽と呼ぶ考えが退けられています。血が続くことではなく、徳・功・言が残ることを不朽と呼ぶ、という区別がここで立てられました。
死後の名声を強く望む者は、次のことを考えていない。
自分を覚えている者もまた、間もなく死ぬ。その後を継ぐ者も死ぬ。
そうして記憶そのものが、愚かに賞讃しては滅んでいく人々を通じて、絶えていく。
名声を望むこと自体を非難しているのではありません。その望みが前提にしている「覚えていてくれる誰か」が、続かないことを指摘しています。
この節は、読者に見える形で置いています。どこまで確かめたかを隠さないことが、引用される条件だと考えています。
| 出典 | 使った箇所 | 状況 |
|---|---|---|
| シャンカラ『ブラフマ・スートラ註解』序論 | 01節 | 照会済 |
| イーシュヴァラクリシュナ『サーンキヤ・カーリカー』(4〜5世紀) | 01節 | 照会済 |
| 『バガヴァッド・ギーター』2章34節 | 01節 | 照会済 |
| 12章18〜19節 | 01節 | 照会済 |
| ウマースヴァーティ『タットヴァールタ・スートラ』7章1節 | 01節 | 照会済 |
| 『法句経』72偈 | 01節 | 照会済 |
| 相応部17.1(利得と恭敬相応) | 01節 | 照会済 |
| 世親『阿毘達磨倶舎論』分別界品 | 01節 | 照会済 |
| 『倶舎論』破我品に引かれた説 | 01節 | 照会済 |
| 世親『唯識三十頌』(玄奘訳) | 01節 | 照会済 |
| 護法釈『成唯識論』 | 01節 | 照会済 |
| 親鸞『教行信証』 | 01節 | 照会済 |
| 唯円編『歎異抄』第三条 | 01節 | 照会済 |
| 道元『正法眼蔵』現成公案 | 01節 | 照会済 |
| 『典座教訓』1237年 | 01節 | 照会済 |
| シャーンティデーヴァ『入菩薩行論』(700年頃) | 01節 | 照会済 |
| 『グル・グラント・サーヒブ』1245ページ(三つの務め) | 01節 | 照会済 |
| 『春秋左氏伝』襄公二十四年(三不朽) | 01節 | 照会済 |
| 『論語』衛霊公篇(版により第19章・第20章) | 01節 | 照会済 |
| 『荘子』逍遥遊篇 | 01節 | 照会済 |
| 『老子』第四十四章 | 01節 | 照会済 |
| 『古事記』上巻(天地初発之時) | 01節 | 照会済 |
| 柳田国男『先祖の話』1946年 第51節 | 01節 | 照会済 |
| 『ピルケイ・アボット』4章13節 | 01節 | 照会済 |
| 箴言 10章7節 | 01節 | 照会済 |
| 『ゾーハル』(1280年代・邦訳 法政大学出版局2012年) | 01節 | 照会済 |
| マタイ6章1〜4節 | 01節 | 照会済 |
| コリントの信徒への手紙一 4章5節 | 01節 | 照会済 |
| グレゴリオス・パラマス(本質とエネルゲイアの区別) | 01節 | 照会済 |
| カルヴァン『キリスト教綱要』1536年 | 01節 | 照会済 |
| クルアーン 57章20節 | 01節 | 照会済 |
| 『ズィヤーラト・アーシューラー』(『カーミル・アッ・ズィヤーラート』所収) | 01節 | 照会済 |
| ガザーリー『宗教諸学の再興』 | 01節 | 照会済 |
| プラトン『国家』第九巻580d〜581c | 01節 | 照会済 |
| エピクロス断片551(プルタルコスが批判する書に引かれた語) | 01節 | 照会済 |
| マルクス・アウレリウス『自省録』第四巻19 | 01節 | 照会済 |
| デカルト『省察』1641年 | 01節 | 照会済 |
| スピノザ『エチカ』第三部 定理9 備考 | 01節 | 照会済 |
| カント『道徳形而上学の基礎づけ』第二章(Ak. 4:421) | 01節 | 照会済 |
| ハイデガー『存在と時間』第27節(世人) | 01節 | 照会済 |
| サルトル『実存主義とは何か』1946年 | 01節 | 照会済 |
| ユング『自我と無意識の関係』第二部「個性化」(野田倬訳・人文書院) | 01節 | 照会済 |
| フランクル『意味への意志』(山田邦男監訳・春秋社2002年)Ⅱ 時間と責任 | 01節 | 照会済 |
| イズマら『ニューロン』58巻 2008年(社会的報酬と金銭的報酬) | 01節 | 照会済 |
| ノワクとジグムント『ネイチャー』437巻 2005年(間接互恵) | 01節 | 照会済 |
| プランク共同研究『Planck 2018 results VI』2020年 | 01節 | 照会済 |
| サクライとナポリターノ『Modern Quantum Mechanics』第3版 2020年 1章4節 | 01節 | 照会済 |
| H・P・ブラヴァツキー『The Secret Doctrine』全2巻 1888年 | 01節 | 照会済 |
| 系譜「引き寄せ・波動はどこから来たか」 | 01節 | 照会済 |
| AWARE研究 2008〜2014 | 01節 | 照会済 |
| ラッセル『宗教は必要か』第4編「死後も生存するか」(大竹勝訳・荒地出版社) | 01節 | 照会済 |
| 『春秋左氏伝』襄公二十四年(三不朽) | 02・04節 | 原文を確認 |
| マルクス・アウレリウス『自省録』第四巻19 | 02・04節 | 原文を確認 |
| 『バガヴァッド・ギーター』12章18〜19節(名誉と不名誉に等しくあれ) | 03節 | 原文を確認 |
| プルタルコス『「隠れて生きよ」は正しい言か』(モラリア1128a〜1130e) | 03節 | 引用の経路を確認 |
| 『論語』衛霊公篇(レッグ訳では第19章・他の版では第20章) | 03節 | 版による番号差を確認 |