自分ではない誰かと、どう関わればよいのか。相手を自分と同じものと見る立場、相手のほうが先に立つとする立場、関わりそのものを問い直す立場があります。同じ体裁で並べます。判定はしません。
並びは成立の古い順で、順位ではありません。一つの答えは同じ長さにそろえてあります。資料の多い立場ほど長くはなりません。
「自分がされたくないことを人にするな」という規則は、紀元前後の数百年のあいだに、互いを知らない場所でそれぞれ書き留められています。ヒレル、孔子、福音書、ハディース、『マハーバーラタ』、そしてゾロアスター教の文書にも見えます。これは、この地図帳で並べたなかで最も広い一致です。
ヒレルと孔子は「するな」と書き、福音書は「せよ」と書きます。この違いを同じものとして扱ってよいかは、学術的な論争になっています。しないことは相手を放っておくことで足りますが、することは相手の望みを推し量る必要があるからです。一致を急いで言うと、この差が消えます。
良きサマリア人のたとえでは、律法学者が「私の隣人とは誰ですか」と尋ねます。対象を問う形です。ところが最後にイエスは「この三人のうち誰が、襲われた人の隣人になったと思うか」と問い返します。問いの向きが、対象から主体へ反転しています。
あなたにとって憎むべきことを、隣人にするな。それがトーラーの全体であり、残りはその注解である。行って学べ。
バビロニア・タルムード シャバット篇31a(ヒレル)だから、人にしてもらいたいと思うことは何でも、あなたがたも人にしなさい。これが律法と預言者である。
マタイによる福音書 7章12節子貢が問うた。「一言で、生涯これを行うべきものがありますか」
先生が答えた。「それは恕であろうか。己の欲せざる所、人に施すこと勿かれ。」
三つを並べました。一つめと三つめは「するな」、二つめは「せよ」です。同じ規則の言い換えと見ることもできますし、別の要求と見ることもできます。ここでは、どちらが優れているかを決めません。
「では、私の隣人とは誰ですか」……
「この三人のうち、誰が、強盗に襲われた人の隣人になったと思うか」
問いが、「誰を隣人と見なすべきか」から「自分が誰の隣人になるか」へ裏返されています。同じ場面のなかで、向きが変わります。
一九九三年、シカゴで開かれた世界宗教会議が「地球倫理宣言」を採択しました。そこには「自分にしてほしくないことを人にするな。あるいは肯定的に言えば、自分にしてほしいことを人にせよ」と、否定形と肯定形の両方が並べて書かれています。一致を認めたうえで、二つの形を残す扱いです。
出典=「Declaration Toward a Global Ethic」1993年9月4日/学術的な検討=ワトルズ『The Golden Rule』1996年/ノイスナーとチルトン編『The Golden Rule』2008年/アリンソン「儒教の黄金律は否定形である」1985年
チベット仏教の「自他を入れ替える」修め方は、『入菩薩行論』第八章に典拠があります。ただし「トンレン」という行法の名前は、この書物には出てきません。のちにアティーシャが伝えた心の訓練の系統で整えられたものです。ひとまとめにすると、シャーンティデーヴァが言っていないことを言ったことになります。
この問いに深く関わりながら、四十二の名簿に入っていない人が二人います。ブーバーは、世界への構えを「われ−なんじ」と「われ−それ」の二つに分けました(『我と汝』一九二三年・植田重雄訳 岩波文庫)。レヴィナスは、他者の顔が言葉の有無にかかわらず「私を殺すな」と命じると論じました(『全体性と無限』一九六一年・熊野純彦訳ほか)。名簿は問いをまたいで共通に使っているため、この問いのためだけには足していません。
この節は、読者に見える形で置いています。どこまで確かめたかを隠さないことが、引用される条件だと考えています。
| 出典 | 使った箇所 | 状況 |
|---|---|---|
| 『チャーンドーギヤ・ウパニシャッド』6章8節7 | 01節 | 照会済 |
| イーシュヴァラクリシュナ『サーンキヤ・カーリカー』(4〜5世紀) | 01節 | 照会済 |
| 『バガヴァッド・ギーター』9章26節 | 01節 | 照会済 |
| ウマースヴァーティ『タットヴァールタ・スートラ』7章1節 | 01節 | 照会済 |
| 『慈経』小部・経集1.8 | 01節 | 照会済 |
| 長部13(三明経・四無量心) | 01節 | 照会済 |
| 世親『阿毘達磨倶舎論』分別界品 | 01節 | 照会済 |
| 『倶舎論』破我品に引かれた説 | 01節 | 照会済 |
| 世親『唯識三十頌』(玄奘訳) | 01節 | 照会済 |
| 護法釈『成唯識論』 | 01節 | 照会済 |
| 親鸞『教行信証』 | 01節 | 照会済 |
| 唯円編『歎異抄』第三条 | 01節 | 照会済 |
| 道元『正法眼蔵』現成公案 | 01節 | 照会済 |
| 『典座教訓』1237年 | 01節 | 照会済 |
| シャーンティデーヴァ『入菩薩行論』8章90偈・120偈 | 01節 | 照会済 |
| 『グル・グラント・サーヒブ』26ページ(奉仕) | 01節 | 照会済 |
| 967ページ(共同の食事) | 01節 | 照会済 |
| 『論語』顔淵篇 第2章・第22章 | 01節 | 照会済 |
| 衛霊公篇 第24章(レッグ訳では第23章) | 01節 | 照会済 |
| 『荘子』斉物論篇 | 01節 | 照会済 |
| 『延喜式』巻第八 祝詞(大祓詞) | 01節 | 照会済 |
| 柳田国男『先祖の話』1946年 | 01節 | 照会済 |
| バビロニア・タルムード シャバット篇31a(ヒレル) | 01節 | 照会済 |
| 『ゾーハル』(1280年代・邦訳 法政大学出版局2012年) | 01節 | 照会済 |
| マタイ22章37〜40節 | 01節 | 照会済 |
| ルカ10章25〜37節(良きサマリア人) | 01節 | 照会済 |
| グレゴリオス・パラマス(本質とエネルゲイアの区別) | 01節 | 照会済 |
| カルヴァン『キリスト教綱要』1536年 | 01節 | 照会済 |
| サヒーフ・ブハーリー 13 | 01節 | 照会済 |
| クルアーン 2章177節(喜捨) | 01節 | 照会済 |
| クライニー『アル・カーフィー』(10世紀) | 01節 | 照会済 |
| ガザーリー『宗教諸学の再興』 | 01節 | 照会済 |
| プラトン『国家』第四巻441c〜444e | 01節 | 照会済 |
| エピクロス『主要教説』27 | 01節 | 照会済 |
| マルクス・アウレリウス『自省録』第四巻23 | 01節 | 照会済 |
| デカルト『省察』1641年 | 01節 | 照会済 |
| スピノザ『エチカ』第四部 定理35 | 01節 | 照会済 |
| カント『道徳形而上学の基礎づけ』第二章(Ak. 4:429) | 01節 | 照会済 |
| ハイデガー『存在と時間』第12〜13節(世界内存在) | 01節 | 照会済 |
| サルトル『存在と無』第三部第一章第四節 | 01節 | 照会済 |
| 『出口なし』1944年 | 01節 | 照会済 |
| ユング『自我と無意識の関係』第二部「個性化」(野田倬訳・人文書院) | 01節 | 照会済 |
| フランクル『死と愛』第二章第一節「人生の意味」(霜山徳爾訳・みすず書房) | 01節 | 照会済 |
| シンガーら『サイエンス』303巻 2004年(痛みへの共感) | 01節 | 照会済 |
| ハミルトン『理論生物学誌』7巻 1964年 | 01節 | 照会済 |
| トリヴァース『生物学季刊評論』46巻 1971年 | 01節 | 照会済 |
| プランク共同研究『Planck 2018 results VI』2020年 | 01節 | 照会済 |
| サクライとナポリターノ『Modern Quantum Mechanics』第3版 2020年 1章4節 | 01節 | 照会済 |
| H・P・ブラヴァツキー『The Secret Doctrine』全2巻 1888年 | 01節 | 照会済 |
| 系譜「引き寄せ・波動はどこから来たか」 | 01節 | 照会済 |
| AWARE研究 2008〜2014 | 01節 | 照会済 |
| ラッセル「自由人の信仰」(『神秘主義と論理』江森巳之助訳・みすず書房) | 01節 | 照会済 |
| ルカ10章25〜37節(良きサマリア人・29節と36節) | 02・03節 | 原文で節を確認 |
| 「Declaration Toward a Global Ethic」1993年 | 04節 | 本文を確認 |
| ワトルズ『The Golden Rule』1996年/ノイスナーとチルトン編 2008年 | 04節 | 書誌を確認 |
| アリンソン「The Confucian Golden Rule: A Negative Formulation」1985年 | 02・04節 | 書誌を確認 |
| 『マハーバーラタ』13巻114章8節(ガングリー訳では第113章) | 02節 | 校訂版と英訳の番号差を確認 |
| 『シャーヤスト・ネー・シャーヤスト』13章29節(ゾロアスター教) | 02節 | 訳文を確認 |
| ブーバー『我と汝』1923年(植田重雄訳・岩波文庫) | 04節 | 原著と邦訳を確認 |
| レヴィナス『全体性と無限』1961年(熊野純彦訳ほか) | 04節 | 原著と邦訳を確認 |
| 『入菩薩行論』8章120偈(自他交換)/行法名トンレンはロジョンの系統 | 04節 | 典拠と行法名の別を確認 |